中薬学テキスト ‐ 第一章 解表薬 ‐ 第一節 発散風寒薬

第1節 発散風寒薬

発散風寒薬の性味の多くは辛温に属し発散風寒を主な効能とします。外感風寒が風寒表証を引き起こしたものに使う薬物の一類を発散風寒薬、または辛温解表薬と呼びます。

発散風寒薬にはいくつかの特徴があります。まず薬性に関してはほとんどの薬物が温性で、香薷、荊芥、防風は微温の性質を持ちます。

薬味に関しては、“辛能発散”の理屈から、全ての薬剤が辛の薬味を持ちます。麻黄は苦泄辛散、開宣肺気の効能、羌活と蒼耳子は燥湿の性質があることから、苦の薬味も兼ね備えています。桂枝は助陽、防風は風薬の潤剤としての効能を持つことから、甘味も持っています。

帰経に関しては“肺合皮毛”、“膀胱主一身之表”の理屈からすべての薬物が肺経か膀胱経に属します。特に麻黄と桂枝は肺、膀胱の両経に属します。紫蘇、生姜、香薷、荊芥、百芷、細辛、蒼耳子、辛夷、葱白、胡荽、檉柳は主に肺経に属し、防風、羌活、藁本は主に膀胱経に属します。また桂枝は温通心陽の効能があり、心経にも属します。紫蘇は行気寛中の効能があり、脾経にも属します。生姜は温中止吐、香薷は化湿和中の効能があり、この二つは脾経、胃経にも属します。荊芥は止血の効能があり肝経にも属します。防風は止痙、止瀉の効能があり肝経、脾経にも属します。羌活は腎経にも属します。百芷は散陽明経風湿之邪、止頭額疼痛の効能があり、胃経にも属します。細辛は陽虚外感を治し、粉にして鼻に噴霧するなどして開窍醒神の効能があり、腎経、心経にも属します。藁本は寒滞肝脈、脘腹疼痛を治し、肝経にも属します。辛夷、葱白、胡荽、檉柳はそれぞれ胃経にも属します。

以上をまとめると下の表のようになります。

薬物
薬性
薬味
帰経
膀胱
その他
麻黄
辛、苦

桂枝
辛、甘
紫蘇

防風
微温
辛、甘

肝、脾
荊芥
微温

羌活

百芷
辛、苦

香薷
微温

脾、胃
細辛

腎、心
蒼耳子


生姜
辛、苦

脾、胃
藁本

辛夷

葱白

胡荽

檉柳


全ての薬物の薬性が温、または微温、薬味が辛で、肺経と膀胱経、特にほとんどが肺経に属することを押さえておきましょう。また一部の薬物は食材や香辛料としても使われます。桂枝:シナモン、生姜:ジンジャー、胡荽:コリアンダー、紫蘇、葱白は料理でも多用されます。

このカテゴリーに属する薬物は発散風寒を主要な作用とし、主に外感風寒が引き起こす発熱、無汗または少汗、頭痛、体の痛みなどの症状で、舌苔:薄白、脈:浮緊などの風寒表証がある場合に用います。また一部の薬物は去風湿、止痺痛、宣肺平喘、利水消腫、透疹、消瘡の効能を持ち、痺れ、喘息、むくみ、麻疹、瘡瘍の初期で風寒表証を呈するものにも用います。

それぞれの薬物の特徴を見てみましょう。

麻黄
効能は発汗解表、宣肺平喘、利水消腫、温散寒邪で、このうち最も重要な効能は宣肺平喘です。性味は辛、微苦、温で、帰経は肺、膀胱です。強烈な発汗解表作用で風寒を散らす効果があり、典型的な発散風寒薬とされます。主に外感風寒、悪寒、無汗の表実証を治し、身体内には宣肺平喘の効果で、肺気の停滞による咳や喘息、例えば風寒咳、寒飲咳喘、肺熱咳喘を治します。また体内の水分を調節する効能もあり、膀胱に作用して利水消腫の作用を表します。宣肺と利水の要薬と言われ、むくみや小便不利で表証の風水証、つまり風水水腫によく使用されます。
桂枝
効能は発汗解肌、温通経脈、助陽化気で、最も重要な効能は温通経脈です。性味は辛、甘、温で、帰経は心、肺、膀胱です。身体の内側から表皮へ陽気を通す効能があり、血脈の流れをよくします。陽気は上へ、そして外へ向う性質があり、この運動を助けるとされます。発汗解肌と散風寒の効能で外感風寒を治し、汗のあるなしに関わらず表実証に使える薬物です。特に胸中の陽気を助ける効果が高く、胸陽不振、心脈瘀阻、胸痺心痛を治します。非常に応用範囲の広い薬物で、瘀血、血流不足、月経痛、肩こり、寒さによる手足の痺れなどにも用います。また全身の陽気の運行を助ける作用があるため、痰飲、動悸、脘腹の冷痛などにも応用されます。

麻黄と桂枝はどちらも発汗解表の効能があり、外感風寒、悪寒無汗、発熱頭痛、脈:浮緊の重症の風邪にたびたび一緒に用いられます。麻黄は宣肺平喘の効能があり、汗腺を開いて直接汗を出すため発汗作用が強く、浮腫を改善する作用があります。これ対し桂枝は温通陽気の効能を通じて発汗作用を表すため、麻黄より発汗作用は緩やかです。このため汗のあるなしに関わらず、表証、表実証によく使われます。また温通経脈の作用を通じて、体内で停留している寒気や血滞による痛み、痰、浮腫、また動悸や奔豚などの証にも用いられます。
紫蘇
発汗解表、行気寛中、安胎、解魚蟹毒の効能があります。性味は辛、温、帰経は肺、脾です。風邪をひいたときに胸中の気が停滞しているものによく使用されます。また脾胃の気滞があり、胸焼けがして嘔吐するものにも使います。安胎の効能もあり、妊娠中の嘔吐や胎動不安などにも効果があります。また魚と蟹による中毒で嘔吐があるものにも用います。

蘇葉、蘇梗にもほぼ類似の効能があります。ただし蘇葉は発散風寒の効能が比較的強く、蘇梗は寛胸利隔、順気安胎の効能が比較的強いといわれています。

生姜
発汗解表、温中止嘔、温肺止咳、解毒の効能があります。性味は辛、温で、帰経は肺、脾、胃です。外には発汗解表、内には化痰止咳の効能を表し、風寒の風邪や風寒の咳に常用されます。発汗解表の作用は比較的弱く、軽症の風邪に使う場合以外は他の薬と組み合わせて使います。生姜は脾、胃にも入り胸部を温めて吐き気を止めます。この効果は絶大で“嘔家聖薬”の名前で呼ばれることもあります。吐き気止めとして用いる場合は、寒熱虚実のどれに対しても使え、胃寒の嘔吐を止める妙薬となります。また半夏、天南星の毒を中和する作用があり、また魚蟹毒を解毒する作用もあります。

生姜、生姜皮、生姜汁は全て同じ植物の根茎を加工したもので、細かい部位の違いはありますが、ほぼ同じ効能を持ちます。生姜皮は利水消腫の効能に偏り、生姜汁は開痰止嘔の作用が強く、特に生姜汁は中医の救急医療に用いられることがあります。

生姜、紫蘇はどちらも発汗解表、解魚蟹毒の効能があり、風寒の風邪、魚蟹中毒、腹痛吐瀉に用いられます。生姜は温中止嘔、並びに温肺止咳の効能があり、半夏、天南星の毒を中和する作用があり、半夏、天南星を炮制するときにも用います。紫蘇は行気寛中、安胎の作用があり、外感風寒で気滞胸悶のあるものに用います。また脾胃の気滞、胸悶嘔吐、胎気上逆、胎動不安などの証にも使われます。

香薷
発汗解表、和中化湿、利水消腫の効能があります。性味は辛、微温で、帰経は肺、脾、胃ですが、肺と胃だけとする場合もあります。夏場に冷たいものを摂りすぎて、胃腸の機能が弱ってしまったものによく使われます。外感風寒、内傷暑湿を治し、陽気が陰邪に阻まれて悪寒発熱、頭痛無汗、嘔吐腹瀉するなどの陰暑証を治します。これらの作用から“夏月麻黄”とも呼ばれます。利水消腫の効能でむくみ、脚気、小便不利にも使われます。

麻黄、香薷はどちらも発汗解表、利水消腫の効能を持ち、風寒の風邪、むくみ、小便不利に用います。麻黄は発汗作用が強く、散寒の力が強いため、無汗の表実証に用い、また宣肺平喘の効能で、肺気が滞り咳嗽気喘になっているものを治します。また利水の力も香薷より強いのが特徴で、風水水腫によく用いられます。香薷は麻黄に比べて発汗作用が穏やかで、和中化湿の効能があり、真夏に冷水を飲みすぎて体調を崩した場合などにも使われます。
荊芥
発表散風、透疹消瘡、炒炭止血の効能があります。性味は辛、微温で、帰経は肺、肝です。薬性は他の薬物に比べて穏やかで、発表散風の効果を長期に渡って使用したいときに用います。例えば季節が夏から冬に変わっても、外感の風寒または風熱が体内に残り、悪寒発熱、頭痛無汗、眼の充血などがある場合に常用されます。また荊芥は血中の風熱を除く働きがあり、邪気が外に染み出して疹や瘡になっているものを治します。また炒荊芥、荊芥炭と呼ばれる加熱修治したものは、吐血、鼻血、血尿、血便、生理異常出血を止める効能があり、其の他の止血薬と配合して用いられます。
防風
発表風散、勝湿止痛、止痙止瀉の効能があります。性味は辛、甘、微温で、帰経は膀胱、肝、脾です。防風の去風作用は強く、風薬の潤剤としての作用があるので、外風、内風に関わらず、多くの病気に治療薬として配合されます。発表風散、勝湿止痛の効果で、風邪による頭痛、また外感の風寒、風熱、風湿のどれに対しても使うことができます。風湿による痺れ、痛み、風疹、掻痒にも用いられます。また去風止痙の効能で、角弓反射のある破傷風などにも用います。炒防風には止瀉、止血の効能があります。

荊芥、防風はともに発表散風の効能があり、外感表証、また風寒、風熱の表証に同じように使用されます。またどちらも風疹による痒みを止めるのにも用います。荊芥の発汗力と透散力は防風よりも強く、麻疹や瘡瘍の初期で表証を表すものを治します。また炒荊芥と荊芥炭には止血作用があります。防風の去風作用は荊芥よりも強く、風薬の潤薬として使われるので、ほとんどの風病に対する処方に配合されます。また防風には勝湿止痛、止痙止瀉の効能があり、破傷風などの外毒による筋肉の痙攣、麻痺や、腹痛、下痢などに用います。
羌活
散寒去風、勝湿止痛の効能があります。性味は辛、温で、帰経は膀胱と腎です。発表の力が非常に強く“気雄而散”とも言われます。作用部位が上半身と表側に偏っているとされ、太陽経の風寒湿邪を散らし、関節を通し、痛みを止めます。風寒の湿邪が表に到り、悪寒発熱、無汗、頭痛項痛、体の痛み、また腰から上の麻痺、特に肩、背中、腕、項などの痛みがあるものによく使われます。
百芷
解表散風、通竅止痛、燥湿止帯、消腫排膿の効能があります。性味は辛、温で、帰経は肺、胃ですが、脾を加えることもあります。香りが強く通竅の効果があり、肺経に入ってから上に昇り鼻の穴を通す作用があります。また止痛作用も強力で、外感風寒、頭痛、鼻づまり、鼻水、鼻周辺の痛みなどにもよく用いられます。また胃経にも入り、陽明経の風湿の邪を発散させ、長期に渡って続く額の頭痛を解消するといわれます。同じく、目の周りの痛み、歯痛、風湿の痺れや痛みなど、陽明頭痛の要薬とも言われます。また陽明の湿邪が下腹部に下がり、帯下が多くなったものを治す働きもあります。また消腫排膿の効果も高く、中医外科の分野で外用されることもあります。
細辛
去風散寒、通竅止痛、温肺化飲の効能があります。性味は辛、温で、帰経は肺、腎、心です。辛味が激烈であるため、温裏薬に分類されることもあります。肺に入っては表の風寒を除き、気道を下って痰を消す作用があります。また百芷と同じく鼻竅を通じ、疼痛を止める効能があります。腎経に入り風寒を除くので、外寒、内寒いずれの病証にも使えます。通竅の作用が非常に強いため、痰や鼻水が気道に詰まって意識を失ったものなどにも使用されます。古方では脳卒中後の意識不明に粉にして鼻に噴霧するという治療法がありました。細辛は温裏薬に分類されることもあります。

百芷、細辛はどちらも去風散寒、通竅止痛の効能があります。どちらも風寒の風邪、鼻周辺の痛み、風寒湿痺に用います。百芷は頭や顔の前部の痛みを取るとされ、他に燥湿止帯、消腫排膿の効能があり、帯下を治し、瘡瘍排毒に用います。細辛は去寒の効能が強く、外寒、内寒の両方に使えます。また温肺化飲の効能があるので、痰を切り、咳を止める働きがあります。また痰や唾が気道に詰まって苦しがったり、意識を失ったりしときにも用いられます。
藁本
去風散寒、勝湿止痛の効能があります。性味は辛、温で、帰経は膀胱です。非常に強力な発散作用があり、風寒湿邪を直接的に取り除くといわれます。太陽経に入り経絡上で滞っている湿邪が原因の頭痛、鼻づまり、頭頂部痛、痺れなどに使われます。皮膚の湿邪を除く作用も強く、手足の痺れ、関節の痛みなどにも用います。

羌活、藁本はどちらも去風散寒、勝湿止痛の効能があり、外患の風邪、頭痛身体痛、風寒湿痺、関節痛などに用います。羌活の作用は強烈で、特に上半身の痺れや痛みに用いられます。藁本も強力な止痛作用を持ちますが、羌活よりも上昇の性質が強く、頭頂部や顔面の痛み皮膚表面の痛みや痺れに用います。
蒼耳子
散風除湿、開竅止痛の効能があります。性味は辛、苦、温で、帰経は肺、時に肝を加えることもあります。他の薬剤と比べて発汗解表の作用が弱く、頭頂から爪先まで全身の皮膚の風湿を除き、通竅して痛みを止めます。風寒の頭痛、風湿の痺れ、また風疹時や疥癬の痒みなどにも用いられます。
辛夷
発散風寒、宣通鼻竅の効能があります。性味は辛、温で、帰経は肺、胃です。作用は緩やかで、肺の風邪を発散させ、鼻の穴のとおりを良くする作用があります。また胃に入り、陽気を頭部に届けて頭痛を治す働きもあります。鼻周辺の痛み、特に小鼻の痛みを取るときによく使われる薬で、他にも鼻水、鼻づまりなど鼻の諸症状を緩和するためによく使われます。

蒼耳子、辛夷はどちらも発散風寒、宣通鼻竅の効能をもち、他の薬剤と比べて穏やかな作用を持ちます。蒼耳子は風湿の痺れや痛み、風疹の痒みなどにも用いるのに対し、辛夷は鼻周辺の症状の緩和に用いる違いが有ります。
葱白
発汗解表、散寒通陽、解毒散結の効能があります。性味は辛、温で、帰経は肺、胃です。体の表面だけでなく内側にも作用するのが特徴で、身体の上下に気を届けます。発汗作用は比較的弱いので、風寒で軽症の風邪に用います。寒気が体内で停滞し、腹痛を起こしている場合にも使われます。また解毒散結の効能があり、瘡癰疔毒や乳房の腫れなどに外用されることがあります。
胡荽
発表透疹、消食下気の効能があります。性味は辛、温で、帰経は肺、胃です。非常に香りの強い薬材で、食欲不振に用いられるほか、麻疹の初期に使用されます。水剤で麻疹の患部を洗うのに使ったりもします。
檉柳
発表透疹の効能があります。性味は辛、温で、帰経は肺、胃です。麻疹の初期に使用されます。水剤で麻疹の患部を洗うのに使ったりもします。

用法用量と注意
麻黄の発汗力は非常に強いため、表虚で自汗のあるもの、陰虚で盗汗のあるものには使いません。また麻黄は宣肺平喘の効能があり、虚証の喘息患者には肺気を消耗させてしまうため用いません。

桂枝は辛温助熱の性質があり、陰気を消耗させ血を動かす作用があります。したがって外感の熱病、陰虚火旺、血熱妄行などの証には使いません。また温通経脈の効能があり、妊婦及び月経が多いものには使用を慎むべきとされます。

荊芥、紫蘇は香油成分が多く含まれるため、煎じる時間は短時間にします。

生姜は、陰虚火旺の証には使いません。

香薷の発汗作用は比較的強く、表虚で汗があるもの、または陽暑証のものには禁忌とされます。

防風は陰虚火旺、血虚発痙の証には使いません。

羌活の性質は非常に雄烈で、用量が多すぎると催吐作用が現れます。このため胃の弱い人には慎重に用います。また血虚痺痛、陰虚頭痛のものには使用を慎むべきとされます。

百芷は陰虚血熱のものには禁忌とされます。

細辛は陰虚陽亢の頭痛には使いません。また肺燥傷陰で渇いた痰が出るものにも用いません。また細辛は藜芦と相反する性質を持つため、同時に使用しません。さらに細辛にはわずかながら毒があり、《本草別説》によれば、“細辛若単用末、不可過半銭匕、多則気悶塞、不通者死”の記載があります。細辛の用量は過剰にならないよう、煎じる場合は一日2-5g、丸剤や散剤にする場合は0.5-1gの範囲にとどめ、外用の場合も過剰にならないよう注意しましょう。

藁本、蒼耳子は血虚頭痛のものには使いません。また蒼耳子にはわずかに毒性があるので、過量投与は中毒を引き起こします。用量に注意しましょう。

辛夷には小さな毛があり、内服する場合はティーパックなどに入れて煎じます。

麻黄の発汗解表作用を強める場合は生(そのまま乾燥したもの)を、止咳平喘の効能を強める場合は炙って修治したものを用います。また荊芥の発表透疹作用を強める場合は生を、止血には炒めて用います。

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